協同組合とは

 1995年、国際協同組合同盟(International Co-operative Alliance,以下ICAと称す)によって発表された声明によると、「協同組合は、協同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織である。」[1]と定義されている。そして何より、“一人は万人のため、万人は一人のため(Each For All And All For Each)”という自立(自助)と協同、そして相互扶助といった考えを持つ組織なのである。

この重要な考え方が誕生したのが、イギリス中部マンチェスター近くの工業都市ロッチデールであった。1844年、“利潤に変わる協同の思想”という理念を持った、わずか28人の貧しい労働者の手によって設立されたロッチデール公正開拓者協同組合[2]が、今日、世界各国に存在する協同組合の基礎を築いたのである。

 

日本における協同組合

イギリスでは1844年に誕生した、協同組合という考え方であるが、日本では一体いつ頃誕生したのであろうか。日本初の協同組合は、1839年に大原幽学が千葉県香取郡で起こした「先祖株組合」(農村協同組合)であると言われているが、先に述べたロッチデール公正開拓者協同組合が日本へ紹介されたのは、1878年のことであった。

今日の日本においては、どのような協同組合が存在するのだろうか。農業協同組合(JA)や、生活協同組合、漁業協同組合、さらに信用協同組合などが挙げられるだろう。そこで本章では、日本における協同組合の代表的な存在ともいえる、農業協同組合と生活協同組合の2つを例に、協同組合の歴史を探っていきたい。

 

1 日本における生活協同組合の歴史

ロッチデール公正開拓者協同組合が日本へ紹介された後、生活協同組合としては、「1879(明治12)年に東京本所で「共立商社」(12人の発起人と200人の組合員を持っていた)、同年11月に東京京橋で「同益社」、12月に大阪北堀江で「大阪共立商店」、1880(明治13)年6月に神戸弁天浜で「神戸商議社共立商店」がつくられたのだが、18811885年頃までにはすべての生活協同組合が解散してしまった。これについては、運動の主体となる労働者階級がまだ生まれていなかったことが、基本的な原因であったと考えられている。」[3]

1919年以降、購買生協・消費組合が続いて設立されるようになり、組合員らが出資し利用し、運営に参加するという原則的な運営をして活動が広がり始め」[4]たのだが、「戦時体制の強化に伴い、組織の運営を続けていくことが困難となり、ほとんどの組合は活動できなくなってしまったのである。

第二次世界大戦直後、生活防衛の必要から多くの生活協同組合がつくられるようになり、その中で1948(昭和23)年に『消費生活協同組合法』が新たに制定されることとなった。そして『消費生活協同組合法』の制定を受け、1960年代以降、高度経済成長の中で消費者運動が質的な転換期を迎えたことから、生活協同組合が主婦たちの手によってつくられ、広がっていったのである」[5]

 

2 日本における農業協同組合の歴史

対して、農業協同組合はというと、「農民の窮乏化に対する政策として、ドイツで発展していた農村信用組合を参考に、明治政府の手で導入が計られたことが始まりである。そして、1900(明治33)年に制定された『産業組合法』によって、明治末期から昭和初期にかけて農村の協同組合として全国に普及していった。

それから約40年を経た第二次世界大戦後、農地改革によって多くの自作農民が生まれていき、1947(昭和22)年に制定された『農業協同組合法』の下に、以前とは異なった形態の農業協同組合が設立されたのである」[6]

 

生活協同組合について

 本論文は、協同組合の中でも特に、生活協同組合に焦点をあてて展開していく予定である。そこで、本章では日本における生活協同組合について考えていく。

 

1 生活協同組合とは

 生活協同組合(以下、生協と称す)は生活向上を目的とした組織で、組合員となる各地域の人々のために事業を行っている。各生協は、原則として県境を越えない。

今日、日本には571もの生協が存在し[7]、それらの生協へ出資している組合員の数は、2193万人にものぼる[8]。「生協」という言葉でひとくくりにされるこの協同組合であるが、実はその種類は数多く、大きく分けても購買生協、医療生協、共済生協、住宅生協の4つに分類される。そして、生協についてよく知らない人をさらにややこしく感じさせるのが購買生協の一部に、地域生協、職域生協、学校生協、大学生協の4生協があるということである。地域生協とは、「地域につくられた生協で、食料品・日用品などの供給事業が中心です。半世紀を超える伝統を持つ生協もありますが、70年代に結成され80年代に急成長した共同購入事業を主力としてきた生協が多くあります。最近では、店舗にも力を入れる生協が増えています。」[9]そして職域生協とは、「会社につくられた生協で、食料品・日用品の供給をはじめ食堂、売店などにも取り組んでいます。職場周辺に組合員が増えたため地域化しているところもあります。」[10]続いて学校生協とは、「全国の公私立小中高校の教職員がつくった生協です。学校への巡回とカタログによる、共同購入が中心です。」[11]そして最後に大学生協とは、「大学の学生、教職員などがつくった生協で、書籍・学用品・日用品などを主に売店で供給しています。また、カフェテリア形式の食堂も歓迎されています。大学生の福利厚生の担い手の一つになっています。」[12]

 

2 栃木県における生活協同組合とは

 栃木県生活協同組合連合会のホームページによると[13]、県内では、地域生協が3組織、職域生協が8組織、大学生協が2組織ある他に、学校生協が1組織、医療生協が1組織、共済生協が1組織、の計16生協が組合員のための活動を行っている。

 本論文では購買生協に焦点をあてているため、上記の16生協のうち、筆者に身近なとちぎコープ生活協同組合と宇都宮大学消費生活協同組合の2組織について述べていくこととする。

 

3 とちぎコープ[14]について

とちぎコープとは、とちぎコープ生活協同組合のことである。1989921日に、栃木県民生協、栃木県南消費生協、安佐市民生協の3生協が合併し、とちぎコープ生活協同組合(以後、とちぎコープと称する)が発足した。その後、1993921日に足利市民生協と、2000321日に生活協同組合とちぎと合併し、現在に至っている。

さて、お気づきになった方もおられると思うが、とちぎコープの発足、合併ともに21日に行われている。特に、921日には発足と1回目の合併が行われており、非常に興味深い。21日、そして921日とは、一体どのような意味を持つのだろうか。

 

とちぎコープの組合員は、2003320日現在で176,393(世帯)人であり、その出資金は5284万円にものぼる。これはつまり、1(世帯)人が約29,956円の出資金を出している計算になる。とちぎコープの加入時の出資金が1,000円であることを考えると、平均すれば実に30倍もの増資を行っているのである。それほど、自分たちの生協をよりよくしていこうという姿勢がうかがえるのではないだろうか。

とちぎコープが取り扱っている事業には、食品・日用品・雑貨・衣類等の生活必需品の販売や共済・保険事業、チケット・旅行・ハウジング・葬祭等のサービス事業、そしてデイサービス等の福祉事業の、計4つに分類できる。中でも今回焦点をあてている購買供給事業においては、共同購入や宅配を行う無店舗事業と、SMV型やミニコープと呼ばれる店舗事業の2業態をとっている。

購買供給事業に関わる事業所は、共同購入(共同購入・宅配)センターが7ヵ所、ミニコープ9ヵ所、SMV型店舗が4ヵ所の、計20ヵ所が県内に存在している。



[1] 「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p16より引用

[2] 上記を参考

[3] 「生協組合員といっしょに考える協同組合運動の意義と役割」1992年 鈴木彰 学習の友社 を参考

[4] 「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p15より引用

[5]「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p15を参考に、筆者がまとめた

[6]「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p17を参考に、筆者がまとめた

[7]日本生活協同組合連合会の会員生協の総数。日本生活協同組合連合会ホームページ 「生協豆知識」より http://www.co-op.or.jp/jccu/hiroba/mado_1.htm(平成16年11月3日現在)

[8]日本生活協同組合連合会ホームページ 「生協豆知識」より http://www.co-op.or.jp/jccu/hiroba/mado_1.htm(平成16年11月3日現在) 

[9]「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」 1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p20より引用

[10]「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p20より引用

[11]「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p20より引用

[12]「高齢者福祉と生協・農協−参加型地域福祉実践例として−」1998年 立川百恵 一橋出版株式会社 p20より引用

[13]栃木県生活協同組合連合会ホームページ http://homepage2.nifty.com/tochigikenren/

[14]とちぎコープ生活協同組合ホームページ http://www.tochigi-coop.or.jp/